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2022年8月20日土曜日

最後の訪問

月日が流れるのはほんとうに早いもので……3年半ぶりの更新です。
パンデミック中、ずっと家にいて時間がありそうなものだったのに、意外と日々追われていたようにも感じるのはなぜなんでしょう。

先週、ベンの実家にさようならをするために、ウェールズへ行ってきました。

ベンのお母さんが2014年に亡くなった後、パートナーのクリスがそのままベンの弟ポールと同居していたのですが、数年前にクリスも家を離れることになったため、ポール一人で住むには広すぎて維持するのも大変なこの家を、とうとう売りに出すことになったというわけです。幸いすぐに買い手が見つかり、それから数ヵ月にわたって少しずつ家のものを片付けていき、ついにこのたびお別れとなりました。

ウェールズ南西のPembrokeshireはCoshestonという風光明媚な地で、ゆったりとボートが行き交う湾が目の前に広がる最高のロケーション。庭もちょっとした公園のようだし、おうちも広々としたすてきなフェリーコテージ。初めて訪れた時、その素晴らしい環境と美しすぎる景観に驚き、こんな夢みたいな家があるのにどうしてゴミゴミしたロンドンなんかに住んでるの⁉️ とベンに言ったほどでした。
以来8年にわたって、クリスマス時期を含め毎年2〜3回足を運んでいましたが、いつ行っても心が安らぐ場所であり、いい思い出しかありません。もちろんそれはクリスとポールをはじめ、地元に住むベンの親戚の方々がよくしてくれていたからというのが一番ですが、このすてきなお家自体が持つVibeというか魅力も多分にあったと思います。変な言い方かもしれないけど、まさかそんなすてきな場所が自分の人生に刻まれることになるとは思いもよらなかった、というのが正直な気持ちです。私はこういう場所には、憧れはあるものの、あまり縁がないタイプかなあと漠然と思っていたから。

ベンとポールにとっては生まれ育った実家とのお別れなので、大量の物品の整理とともに、気持ちの整理も大変だったと思います。まあ、この数年間、家を手放すにあたっての実務に追われてそれどころじゃなかったかもしれないし、ここまでくるとポールはもう早く新生活に移行したいという感じでしたが、長い間、実家から離れて暮らしていたベンは、さすがにこの最後の一週間で少し感傷的になっているように見えました。
私もできるだけこの景色を目に焼き付けておかなくちゃと思うのですが、そう思えば思うほど、何をどう記憶、あるいは記録にとどめたらよいのかよくわからなくなって、これまで何度も撮った景色やスポットの写真をまた撮ってみたりとか、隣家で放し飼いされてるブタちゃん2匹(茶色と黒なので、我が家の猫タムタム&ラミーにちなんで勝手にトムトム&ラニーと呼んでいた)におやつ(庭木のりんご)をあげにいったりとか、よく歩いた道をもう一度歩いてみたりしては、何かとりとめのないことをしているような気がするなあ。。。と結局、焦燥感にかられるばかりなのでした。でも思えば人生っていつもこんな感じ。
自宅の猫たちを長々とキャットシッターさんに任せておくのは難しいため、私は3泊しただけでひと足先にロンドンに戻ったですが、できればもう少し長く滞在したかったです。でも最後にLawrennyにあるお気に入りのカフェ、Quaysideに行けたのはうれしかった。このカフェはベンの実家の対岸にあって、目の前の浜辺から目と鼻の先ぐらいの近さに見え、ボートがあれば5分ぐらいで行けるのに、車で行くとぐるっと道を迂回しなければならず、20〜30分かかってしまいます。メニューは素朴で、少々割高ながら、新鮮な地元食材をメインに使っているし、ケーキもおいしい。そして何と言っても水辺に面したテラス席が開放的でとても気持ちよく、昼からビールを飲むには最高です。クラブサンドイッチ(海藻サラダ付き)もすごくおいしかったし、ビクトリアスポンジも巨大なスライスでしたが、とてもおいしかったです(真ん中の写真はポールが注文したプローマンズ・サラダ。一番下は目の前の眺め)。
ベンの従叔母にあたるミッシェルとPembrokeのカフェでランチもしました。彼女はPembrokeにあるカード屋さんで働いているらしく、毎年ベンの誕生日やクリスマスなどにカードを送ってきてくれるのです(もちろんポールや、その他の親戚一同にも同じようにカードを送っていると思います)。私はミッシェルとは、それこそ8年前のベン母のお葬式の時にちらっと挨拶しただけだったと思うので、正直どんな風貌だったか覚えていなかったのですが、もれなくカードを送ってくれるマメさから、なんとなく勝手に人物像をつくり上げていました。が、今回お会いして、思っていたよりずっと気さくでサバサバした感じの人だったので、やっぱり人って見かけによらないよな、なんて改めて思ったりして。私にもすかさず「誕生日いつ?」と聞いてきたので、いやいや、いいですよーって受け流していたのですが、会話の流れでベンが、翌週に迫っている私の誕生日に触れてしまったところ、「てことは、コリン(ベンの叔父)と同じ日ね」とか言うので、これまたびっくり。「親戚中みんなの誕生日覚えてるんですか?すごい……」と言うと「職業病だから」と返された(ちょっと意訳かもですが笑)。

ベンのいとこ一家、カヤックス家も私がいる間に時間をつくってくれて、来春結婚予定のベンのいとこのエミリーの新居にみんなで集まりました。カヤックス家にはかつて4匹の犬がいて、クリスマスにおうちに訪れる楽しみの一つにもなっていたのですが、今やそのうち2匹が他界し、残り2匹のうちの1匹、コスタが現在エミリー宅に住んでいます。初めて会った時はまだ1歳とかだったと思いますが、もはやこの子も7歳ぐらい? 相変わらず元気に走り回っていて、遊ぶの大好き。体もますます大きくなっていたみたい。
ベンのおじいちゃんも、足腰が弱っているので移動する時は家族に支えながらではありますが、気持ちは相変わらずとっても若々しくて、「とりあえずビール」っつって飲んで、ジョークを交えつつ昔の体験談をはじめ、いろんなお話を聞かせてくれるのでした。私にも「日本に帰るときは連れて行ってね」なんて言ったりするお茶目なおじいちゃんですが、亡くなってしまった犬のスクービーがよくおじいちゃんの膝の上に乗っかってくつろいでいたとあって、スクービーが恋しいそうです涙。しかし今回改めてびっくりしたのは、おじいちゃんがめちゃくちゃ絵が上手だったこと! エミリーの新居祝いを何も用意できないから代わりに絵を描いてあげるって言って描いたらしいのですが、これがめっちゃすてきな絵だったのです。
(写り込みが目立ってしまってますが……けっこう大きい絵です)

おじいちゃんはパンデミック中、人との接触を避けるために一人で地階の部屋にこもっていたらしいのですが、その間にもプラモデルをつくったり絵を描いたりしていたようです。歳をとっても一人でこうやって充実した時間を過ごせるのって、本当にすてきだなあと思いました。

というわけで短かったとはいえ、最後の滞在を満喫できたかなと思います。ベンいわく、最終日には、亡きお父さんの友人夫妻や、隣家の人たちも訪れてきてくれて、みんなで写真を撮ったりしたそうです。このへんはふだん雨が多いらしいのですが、天気にも恵まれた一週間だったし、こんなによいお別れをできることもそうそうないんじゃないかなとも思います。

実家がなくなるのって予想以上にインパクトが大きいものです。うちは両親が10年ちょっと前に、私の生まれ育った実家を手放し、新しい土地に引っ越しました。とても環境のいいところなので心からよかったなあと思っているのですが、以来、なぜか私はこの昔の実家の夢を頻繁に見るようになりました。そこまで実家に思い入れがあったとも思えないのに、本当に不思議なものです。家自体は取り壊され、新しい家が建って新しい人々が住んでいるらしいのですが、私の潜在意識の中で、その古い家はまだ生きているようです。家の持つ力、存在感、意義って、思っているよりもずっと大きいのかもしれません。

ひと足先にロンドンに戻ってきたその翌日、早くもミッシェルから私宛てにバースデーカードが届きました笑。また近いうちに行けるといいな、ウェールズ。ひとまず来春のエミリーの結婚式が今からとても楽しみです。
Today's music: Deep Down in Dreams mix 少し前になりますが、Mother TonguesのWaves & Ritualsという企画で手がけたミックス。夢に出てくる古い実家のことを思いながら選曲しました。